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2026.2.3

偽りの循環を断ち切る—PASSTOが生まれた「影」の記憶 | PASSTOマガジン VOL.20

偽りの循環を断ち切る—PASSTOが生まれた「影」の記憶 | PASSTOマガジン VOL.20

    「捨てない社会をかなえる」

    PASSTOを運営するECOMMITの理念に刻まれた、この一文。 そこには、かつて中国の片隅で目撃した「偽りのエコ」への強い憤りと、今も消えない後悔の記憶がある。

    循環型社会、サーキュラーエコノミー。 今日、耳に心地よい言葉がメディアを躍る。 しかし、その光が強ければ強いほど、裏側に落ちる影は深く、暗い。 これは、PASSTOというサービスが産声を上げるより遥か前、ECOMMIT創業者でCEOである川野輝之が見た記録である。

    株式会社ECOMMIT 代表取締役CEO 川野 輝之

    株式会社ECOMMIT
    代表取締役CEO
    川野 輝之

    高校卒業後に中古品輸出企業に就職し、4年間の修業期間を経て22歳でECOMMITを創業。創業後、中国に輸出された日本の電子ごみによる環境負荷を目の当たりにし、トレースできない中古品の海外輸出を一切停止し、環境問題に改めて向き合う。現在は、自社開発システムを主軸に企業や自治体のサーキュラーエコノミー推進事業を全国に展開する。

    「都市鉱山」という心地よい響きと、胸を突く違和感

    2010年、創業間もない頃。 当時の環境ビジネスは、まだ「なんでも屋」の延長線上にあった。 「壊れていてもOK」「無料回収」。 街には「エコ」という看板が溢れ、大手量販店も下取りキャンペーンを競っていた。 回収された小型家電、基板、モーター、配線。 それらは「都市鉱山」という美しい呼び名で、魔法のように資源へ戻るのだと信じられていた。

    重機で無残に潰され、家電の残骸

    イメージ写真 Photo : poco_bw

    ビジネスとしての効率は、この上なく良かった。 回収したスクラップを中国系の買取業者へ渡せば、1kgあたり40円以上の現金に変わる。 重機で無残に潰され、港に山積みにされ、船で海を渡る家電の残骸。当時はまだ零細企業だったECOMMITにとって、それは会社の屋台骨を支える貴重な収益源。 売れば売るほど、数字は伸びた。

    しかし、積み上がるスクラップの山を見上げるたび、喉の奥に小骨が刺さったような違和感が消えない。 「このボロボロの塊が、本当にすべて資源になっているのか」 「なぜ、これほどまでに高い値がつくのか」。 確認しなければならない。 その一念で、川野は中国行きの航空券を手にした。

    「エコ」の裏側、リサイクルの町で見た地獄

    ガイドに連れられ、中国のとある村に足を踏み入れた。 そこは、町全体が巨大な「解体場」だった。 日本から届いたであろうスクラップが無造作に積み上げられている、工場と呼ぶにはあまりに質素な施設。 

    スクラップの山

    イメージ写真 Photo : Elmar Gubisch

    そこでは女性子供含め、多くの人が手作業でスクラップを解体していた。家電の銅線だけを取り除く人、コイルのようなものをハンマーで破壊して中の部品を分ける人、解体された基盤だけを集める人。施設ごとに役割分担されているようにも見えた。

    女性子供含め、多くの人が手作業でスクラップを解体

    イメージ写真 Photo : siriphat wandee

    これだけなら、まだ「手作業によるリサイクル」と呼べたかもしれない。 だが、町の少し外れに目を向けた瞬間、言葉を失った。

    至るところに残る、山積みのプラスチックの焼け跡。 基板を薬品に浸し、巨大な鍋で煮る、有毒な煙。 鼻を突く、焼けるような刺激臭。スクラップの山の近くで地べたに座って素手で作業する若い女性たち。視線の先にある河川は、粘土のような漆黒に染まり、ガラス屑が散らばる道を、裸足で駆ける子供たち。

    山積みのプラスチックの焼け跡

    イメージ写真 Photo : a454

    河川は、粘土のような漆黒に染まり、ガラス屑が散らばる道

    イメージ写真 Photo : niphon

    裸足で駆ける子供たち

    イメージ写真 Photo : Suraphat Nuewa-on

    「これはリサイクルではない。環境負荷そのものだ」

    日本で「エコ」と謳われ、善意やビジネスとして送り出されたものは、異国の地で人々の健康を蝕み、自然環境を破壊する凶器へと姿を変えていた。 先進国が「リサイクル」という免罪符を買い、発展途上国へゴミと汚染を押し付けている残酷な構造。 その惨状に自分たちが加担してしまっていたこと、何も知らずに「エコ」を謳う日本企業、そこから買い付けを行う中国企業にへの憤りが、静かに、しかし激しく沸き上がった。

    劣悪な環境で仕事をする女性たちや、何も知らずに無邪気に遊ぶ子供たちに対する罪悪感や哀れみの感情が入り混じり、拭い去れない矛盾を抱えて川野は帰路につくことになった。

    30人の仲間と、退路を断つ決断

    帰国を待つ空港のベンチ。 数時間、一歩も動かず、根本的解決のアイデアを手帳に書き込んでは消してを繰り返した。 頭の中にあるのは、あの真っ黒な川と、子供たちの無垢な瞳。 お土産を買う気になど、到底なれなかった。

    川野の手帳に綴られた「世の中のためになる」という言葉

    川野の手帳に綴られた「世の中のためになる」という言葉

    「すぐに中国向けの取引を中止する」

    帰国後、当時30名ほどだった社員を前に告げた。 当然、反対の声は上がった。 販売を続ければ40円/kgの売上だが、国内の適正施設へ持ち込めば、逆に10円の処理費用が発生する。 利益を捨て、あえてコストを払う。 それは、成長途上の企業にとって、自らの首を絞めるに等しい暴挙だった。

    今のECOMMITを築いた仲間たちや取引先

    今のECOMMITを築いた仲間たちや取引先

    「子供たちに胸を張れる仕事にしよう。」

    説得の末、仲間は頷いてくれた。 しかし、現実は甘くない。 取引先に実情を話し、適正処理への協力を求めて回ったが、返ってきたのは冷ややかな反応だった。 「それは中国の話でしょ? 我々には関係ない」と取引先の半分が去った。売上は激減。 「環境ビジネスは儲からない」 創業当時に誰かが放った呪詛のような言葉が響いた。

    システムへの挑戦と、PASSTOの胎動

    感情だけでは世界は変わらない。 川野は国立環境研究所や大学の門を叩き、文献を読み漁った。 「誰かを悪者にするのではなく、システムそのものを変革しなければならない」、 辿り着いた答えは、適正な「循環のインフラ」の確立だった。世界最大の流通網を誇るAmazonが「消費のインフラ」を築いたのなら、その逆を行く道。すなわち、手放されたモノが再び輝くためのインフラを創る決意だった。

    日本で回収し、日本の技術と現地の労働力を掛け合わせ、再び製品として日本へ戻す。 透明性の高い循環の環。 当時の技術と規制では、その夢はあまりに大きく、一度は断念せざるを得なかった。 しかし、あの日の決意が消えることはなかった。

    システムへの挑戦と、PASSTOの胎動

    それから10年以上の歳月が流れ、変化の兆しが見えてきた。 「サーキュラーエコノミー」が取り上げられるようになり、リサイクル技術は飛躍的に向上した。 そして今、ECOMMITは「PASSTO(パスト)」という形で、一つの解を提示している。

    PASSTOが目指すのは、単なる「不要品の回収」ではない。 モノが手放された後、誰の手を経て、それがどこへ行くのか。 その全行程に責任を持ち、偽りのない循環を社会に実装すること。 あの中国の村で見たような光景を、二度と繰り返さないための防波堤となること。

    「捨てる」を「活かす」に変える場所

    今日、中国で見た「無責任な輸出」への後悔は、関東最大規模の拠点「東京サーキュラーセンター」という一つの形へと結実した。 そこには、モノの価値を一点ずつ丁寧に見極めるプロピッカーたちの姿がある。かつて異国の地で「破壊」を待つだけだったモノたちは、目利きの力によって、再び誰かを笑顔にする「新たな価値」へと生まれ変わる。

    循環の心臓部「東京サーキュラーセンター」では 毎日プロピッカー1人あたり1,000kg以上の選別を行っている

    循環の心臓部「東京サーキュラーセンター」では
    毎日プロピッカー1人あたり1,000kg以上の選別を行っている

    どこで回収され、誰の手を経て、どこへ届くのか。 その行程を自社でトレースし、透明性を担保する。それこそが、あの日絶望したECOMMITが、10数年かけて辿り着いた「責任の形」だ。

    2026年1月末現在、PASSTOの回収拠点は全国6,000箇所を超え、この1年で2倍に急増した。自治体との連携や「宅配PASSTO」の加速。広がり続ける「パストする」というアクションは、もはや私たちだけの挑戦ではない。

    あの日の絶望から始まったこの道が、いつか「捨てない社会」という当たり前の未来へ繋がると信じて。

    あなたも一緒に、この循環の輪を広げていきませんか。

    Copyright ECOMMIT 2026